2017年07月17日

空の管理人 5

  空の管理人
                                  ただのアツシ


          五

 いつかどこかで聴こえた声を頼りに、私は心の中で念じた。卒業式は土砂降りの雨だった。その雨を晴れに変えられたら、先輩たちの気分も晴れやかになると考えた。
 思えばこの一年間、私は不思議な「空の管理人」のことをずっと気にかけてきた。
 一年前、旅行から帰った日にみた夢は、以降の私に強烈な印象を与えた。図書館で情報収集をし、空の管理人の存在を当然のように語る周囲の人にも聞いて回った。そして、ある雨の日に空の管理人の秘書官を名乗る不思議な影に出会い、天気を自在に変えることができる空の管理人につながる情報を得た。それは、天気を変えたいときに心の中で強く念じる、という至ってシンプルなものであった。

 私は目を閉じ、心の中で青く晴れた空を想像した。雲一つもない青空を。
 気づいたら私は分厚い雲の上にいた。辺りは暗い。私が呆然としていると、目の前にあの不思議な影がいて、いつものように丁寧にお辞儀をしている。
「ごきげんよう。とうとうここまで来れたか」
 ここはいったいどういう場所なのだろうか。私は自分自身の置かれた状況を未だ掴めずにいた。
「ここは、雲の上、つまり空の管理人のいる場所?」
「いかにも。ひとまず、おめでとう、空の管理人についてよく勉強したんだね。ついに君は空の管理人システムの全貌を知ることになるというわけだ」
「空の管理人システム?」
 前回会ったとき、空の管理人の秘書官を名乗った影は、にやにやしながら私に得意げに話している。実体のない不思議な影と足元の雲。私はここが現実の世界ではないと理解していた。しかし、不思議と恐怖心はなかった。
「君には衝撃的な話になってしまうかもしれないが」
 影は前置きをしてからこう切り出した。
「残念ながら、君が理想的に思い描いていた空の管理人という人物は存在しない。私は世界中の天気を自在に操るシステムを管理している者だ。そして君は、新たに十番目の空の管理人に選ばれた」

 混乱している私に、影はなおも続ける。
「世界中には十人の空の管理人権限が分散している。君は今日高校を卒業する先輩に代わって、管理人権限を継承することになったというわけで」
 頭が痛い。どこかで憧れていた空の管理人には会えなくて、私が空の管理人になってしまうとは、いったいどういうことなのだろうか。そもそも、先輩とは誰の事なのだろうか。
 私はただ唖然としていた。
「君は今日から自由に天気を変えられるんだよ、もっと喜んでよ。そうそう、管理人権限について詳しく話そう。世界の天気は均衡を保つようにできていて、すべての場所を晴れとか、雨とかにはできない。だから、たとえ空の管理人権限を得たとしても、必ずしも希望の天気にできるわけではなくて、あまりに特定の天気に希望が集中したときには、ここで会議を行う」
 秘書官を名乗る影は、私たちのいる見渡す限りの巨大な雲の上を指して言った。
「ここは、世界中の管理人が集まる、雲上会議場。今は僕たち以外に誰もいないけど」
 分厚い雲の上には宇宙にも近い青空がどこまでも続いていた。

                                  続く
posted by 新月 朔 at 00:53| Comment(0) | 空の管理人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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